PRO-VISION 2 Lesson 1 An Abundant Well That Never Runs Dry

Lesson 1
An Abundant Well That Never Runs Dry 
枯れることのない豊かな井戸

We don’t receive wisdom; we must discover it for ourselves after a journey that no one can take for us or spare us. ―― Marcel Proust
知恵は授かるものではない。 それは他人に代わってもらえない、 免れることのできない旅の果てに自ら発見しなければならない。 ――マルセル・プルースト

Part1 本文和訳

私は奇妙な偶然から日本文学を見つけました。1940年、私が18の時のことでした。みんなは今では忘れているようですが、当時は西洋の世界が一番暗い時代でした。ナチスドイツがヨーロッパ全土に侵攻していましたし、次はアメリカなんじゃないかと私は恐れていました。来る日も来る日も、悪いニュースばかりが新聞に載り、私はひどく落ち込んでいました。

そんなある日、私は本の安売り店で2巻で1冊の本を見つけました。それは『源氏物語』でした。本を読み始めた途端に、それまで知らなかったような美意識に魅了されました。それが私の人生の真の意味での出発点でした。

それから1941年、戦争が起こり、私は合衆国海軍日本語学校に入りました。日本人と戦おうとは思っていませんでしたが、自分が努力すればその分戦争は早く終わると期待していました。海軍の言語将校としてハワイで多くの時を過ごしました。しかし、アリューシャン列島での玉砕はこの目で見ました。私の任務は日本人兵士の残した文書や日記を読むことと、戦争で捕虜になった人たちにインタビューすることを含んでいました。日本の風習や文化について捕虜たちからとても多くのことを学びました。

WINDOW1

Keene’s Encounter with The Tale of Genji

キーンさんと『源氏物語』との出会い

ドナルド・キーンさんは、『源氏物語』に描かれているすべての物の美しさに感動しました。例えば、『源氏物語』では、登場人物は素晴らしい書で手紙や詩を書きます。どんな紙を使えばいいのかとか、どのように折ればいいのかとか注意深く考えます。こうした手紙は、四季折々の花と一緒に届けられます。キーンさんは昔のこうした世界の優美な作法にひかれたのでした。

Part2 本文和訳

戦争が終わって間もなく、1945年12月、私は初めて日本に着き、約10日間滞在しました。この経験を振り返ってみると、信じられない思いです。私は厚木飛行場から東京の中心部に向かいました。しかし、東京の都心に近づくにつれて、どんどん家が少なくなっていき、煙突と倉庫だけが残っていました。町全体が廃虚と化しているように思えました。当時の世界中の人は、日本が戦前の姿に戻るのに少なくとも50年はかかるだろうと考えていました。

私は米国に帰って、その後、イギリスに引っ越して、日本語と日本文学の教授になりました。とても日本に行きたかったのですが、当時は輸出業者と聖職者しか日本への入国が許可されませんでした。

1953年、ついに京都大学の学生として日本に行くチャンスを手に入れました。最初の短い訪問から8年が過ぎていました。日本の国民はまだ貧しかったのですが、国全体は素早く成長していて、将来は明るいように思えました。日本にいる1分1分を楽しみました。

WINDOW2

Japan will become an even more wonderful nation
日本はさらに素晴らしい国になることでしょう。

2011年3月11日の東日本大震災の後、ドナルド・キーンさんは日本人と一緒にいて、日本人に感謝の気持ちを伝えるために日本国民になりました。日本の将来について楽観的でした。第2次世界大戦中の自身の経験がもとになっている考えです。大戦から8年後、日本は、終戦直後にキーンさんが見た日本とは大きく異なる国になって甦りました。キーンさんは、日本がさらに素晴らしい国になる途上にもう1度いると信じています。

Part3 本文和訳

私は、1953年から1955年の間、2年間京都にいました。興味の中心は日本の古典文学でした。現代の日本と文化にはあまり興味はありませんでした。しかし、私の目は友人たちによって開かれました。特に、後に文部大臣になった永井道雄によって。身の回りで起こっていることを知ることは、とても大切だということを道雄から学びました。

そして、道雄との友情は歓迎すべき伸展を見せました。道雄と道雄の友達は、私を当時の日本の作家たちに紹介してくれたのです。偉大な巨匠から、新進気鋭の若手作家まで――谷崎潤一郎、川端康成、三島由紀夫、阿部公房、その他の作家たちを含んでいます。みんな活動的に書いていました。そして私は伝説的存在・永井荷風にさえ会いました。それは日本で望むことのできる最高の教育でした。

Part4 本文和訳

多くの日本人は、海外に行って初めて、日本文化がどのくらい深くて貴重なものか理解します。日本で大きくなっているときには、多くの人は外国や外国の文化のことを夢見ます。そして、自分たち自身の伝統と日本の豊かな歴史をたいてい見過ごします。しかし、日本から一歩踏み出して、他の文化を経験すると、他の文化を理解するためには自分自身の文化をまず最初に知らなければいけないと悟るのです。ただ単に君が日本人だからという理由で、人々は君が日本文化のことは何でも知っていると期待することでしょう。しかし、たいていこれは、ほとんどの人について当てはまりません。

日本について知る方法はたくさんあります。そうした方法の1つは、現在と同じように昔の日本文学を読むことです。幸いなことに、『源氏物語』から村上春樹までたくさんの選択肢があります。日本文学は決して枯れることのない豊かな井戸なのです。学ぶのに遅すぎるということは決してありません。しかし、若いうちに読書をすることはとても大切です。年齢を重ねるごとに、ますます読む時間が少なくなるからです。そんなわけで、本を開いてください。新しい世界が君を待っています。