LANDMARK 2 Reading 1 What Happend to Mark?

Reading 1 What Happened to Mark?
マークに何が起こったか

台所にいるマークとお父さん
マークは台所のテーブルについた。背後でラジオがニュース(の始まり)を告げる曲を大音量で流した。

「・・・大量虐殺は依然として続いています。現在,目撃者によれば,死亡者数は数千人にのぼるもようで,その数は依然として増え続けており,政府軍は・・・」

マークはまばたきした。一瞬,自分が 1930 年代に戻り,ヒトラーが殺害しているすべての人たちについてラジオが伝えるのを聞いているのかと思った。

でも,これは今のことであった。人々は今も殺されていたのだ。もちろんマークはこういった報道を以前にも聞いたことはあったが,それが現実のことだと思われたことは一度もなかった・・・

「父さん・・・」とマークが不意に言った。

「うーん」とお父さんは卵にコショウを振りかけながら言った。

「今日も人が皆殺しにされているの?」

「人が何だって?」お父さんは驚いてむせた。

「皆殺しにされているのかってこと。ほら,ヒトラーのときのユダヤ人みたいにさ。」

お父さんはコーヒーを飲み干した。「もちろん,そんなことはないさ」とお父さんは答えた。

「でもニュースではたった今,変わった名前のその場所で人が殺されてるって言ったよ・・・」

「実は聞いてなかったんだ」とお父さんは認めた。「いいかい,そんなことは心配するな,マーク。みんなずっと遠くのことさ。」

マークはちょっとの間,食べ物をかんだ。「父さん・・・」とマークは聞いた。

「今度は何だ?」

「ひいひいおじいさんは,どうやって農場を手に入れたの?」

「何だって?そりゃあ買ったのさ。」お父さんはマスタードに手を伸ばしてソーセージに少しかけた。

「アボリジニーの人たちから盗んだんじゃないよね?」

「いや,もちろん違う。」お父さんはマークに険しい顔をした。「そのころは,とにかく,そういうことじゃなかったんだ。だれもそれが盗みだなんて思ってなかった。」

「でも,もしひいひいおじいさんがアボリジニーの人たちから農場を奪ったとしたらどうなるの?それはぼくらの責任ってことじゃないよね?」

「だれがお前にそんなことを吹き込んでいるんだ?」とお父さんは詰問した。

「ニュースを聞いてただけさ。そしたらだれかが言ったんだよ――」

「近ごろやつらが子どもに教えることときたら」とお父さんはソーセージに荒々しくかぶりつきながら言った。「他人のことに口を出すなってやつらがみんなに教えてくれたら,そのほうがよっぽど道理にかなってるだろうぜ。」

「でも,父さん――」

「マーク,もうやめてくれないか?」

「でも,父さんは何かについて意見が合わなかったら話し合うべきだって言ったよね。それにさ――」

「マーク,いいかげんにしなさい」とお父さんは厳しく言った。「わかったか?」

マークは黙って朝食を食べた。

マークが見たヒトラーの夢

その夜,マークは夢を見た。ヒトラーが川の向こう側にいた。このヒトラーは鼻の下に粘着テープで口ひげを付けていたものの,ジーンズをはいていて髪型も今風だった。

ヒトラーは演説をしていた。すると突然,マークのいる川岸のそこら中に人があふれ,演説を聞いて声援を送っていた。

「あっちへ行け」とマークはみんなに叫んだ。「ばかげた演説だよ!ばかげてるって聞こえないの?」

でも,声は出なかった。

オートバイに乗って腕にかぎ十字を付けた男の子がいて,軍服を着たもう 1 人の男の子もいた。小さい女の子もヒトラーに敬礼していた。男の子たちは刺激が欲しいだけで状況をまったく考えていなかった。女の子は男の子たちのまね
をした・・・「あいつは間違ってるんだ!」

とマークは叫んだ。「あいつが間違ってるってわからないの?」

けれども,みんなは笑い,歓声を上げ,興奮していて,だれもマークの言うことを聞いていなかった。みんなは川の中へ歩いて行った。みんな押し流されちゃうぞとマークは思った。

とにかく,みんなはぜったいそこにいちゃいけないんだ。ヒトラーは笑って,笑って,笑い続けていた・・・

「みなさんはみんな私の子どもなのだ」とヒトラーは叫んだ。「みなさんはみんなヒトラーの子どもなのだ!」

「あっちへ行け」とマークは再び叫んだ。「ぼくが眠ろうとしてるのがわからないの?」

突然マークはベッドで目を覚まし,さっきの人たちが消えてしまったことに気づいた。

朝食のテーブルにつくマークとお母さん

夢は朝食までにはほとんど消えかけていた。その気配だけが頭の中に留まっていた。

「母さん?もしヒトラーが今戻って来たらさ・・・」

「まだヒトラーのことをうだうだ言ってるんじゃないわよね?」とお母さんは聞いた。

「えーと,じゃあヒトラーじゃなくて。ヒトラーみたいに本当に悪いやつがさ。」

「ああ,マーク,もう質問はよしてちょうだい。まだ朝早いのよ!」とお母さんは言い張った。

「でも母さん,もしみんなが本当に悪いやつを正しいと思っちゃったらどうなるの?ドイツ人がみんなヒトラーは正しいと思ってたみたいにさ。」

「ドイツ人がみんなヒトラーは正しいと考えてたとは思わないわ」とお母さんは言った。

「ドイツは全体主義国家だったってことを忘れちゃいけないわ。」

「それってどういうこと?」

「ヒトラーはラジオや新聞を統制してたから,だれもヒトラーが反対するようなことを口にするのを許されていなかったってことよ。もし公然と意見を言おうものなら強制収容所に送られてしまったのよ。」

「みんなは抗議したの?」とマークは聞いた。

「わからないわ」とお母さんは言った。「そうだと思うけど・・・」

「母さん,もしヒトラーが権力の座にあったとしたら・・・母さんは抗議してた?」

「もちろんよ」とお母さんは言った。

「刑務所に行くことになったとしてもね。」

「何ですって?いいえ,それはないわね・・・マーク,私はそんなことにはちっとも興味がないのよ。わかる?とにかく朝食を食べなさい。」

「ぼくが言いたいのはさ」とマークは言った。「もしみんなが,じゃなくてもほとんどの人が,あることが正しいと思ってて,でも自分はそれが間違ってるって思ったとしたら,そのときはどうするかってこと。」

「マーク,いい子だから,こんなことをやってる時間はないの!とにかくポリッジを食べてしまいなさい,わかった?遅れちゃうわ。」

マークは肩をすくめ,ポリッジをもうひとさじすくった。お母さんがもううんざりしていたのならしゃべり続けてもむだであった。

マークの考えごと

マークは,質問に答えるのが大好きなお母さんがいたらどんなだろうかと思った。物ごとを考えるのが本当に好きなお母さんがいたら・・・

「それは本当にいい質問だわ,マーク」と想像の中のお母さんは言うだろう。

「私がまずするのは『他人のことに口を出さないで』って言うことね。でも,それはよくない答えよね。」

「そうなの?」とマークは心の中で聞いた。

想像の中のお母さんはうなずくだろう。

「それは私がいつもやってることよね」とお母さんはゆっくりと言うだろう。「テレビを消したり,何でも議論したがったり嘆願書なんかに署名したがる人との言い争いを避けたりね。でも・・・」と言ってお母さんは首を横に振るだろ
う。

「それってドイツの人たちがしたことじゃない?みんなヒトラーに反対だった。というかヒトラーのすることすべてに賛成したわけじゃないの。でも,みんなそれに迎合した。もう手遅れになるまでね。みんな目を閉じるだけで,物ごとを成り行きに任せていたの。」

想像の中のお母さんはうなずき,真剣な顔でマークを見るだろう。「あんたのおかげでちょっと考えることができたわ」とお母さんは言うだろう。

それからは,お母さんは,いつもニュースを聞き,デモ行進に出かけ,嘆願書に署名し始めるだろう。

そして,ひょっとすると,もしヒトラーのようなやつが権力を握ったら,お母さんは刑務所に行かなければならなくなるだろう。マークがお母さんに刑務所に行ってほしいと思うなんてあり得ないことだった。

でも,たぶん・・・ひょっとすると・・・。

「どうしたの?」とお母さんが言った・・・現実のお母さんだ。

「ポリッジが熱すぎた?」

「だいじょうぶ」とマークは言った。

お母さんはため息をついた。「いいこと,私に質問するのは私があまり忙しくないときにしてちょうだい。わかった?」

「わかったよ」とマークは言った。