GENIUS 2 Lesson 1 Hanamizuki

Lesson 1
Hanamizuki ハナミズキ

Part 1 本文和訳

日本の春の儀式に,はかない命のサクラの開花を待ち望む儀式があります。そしてサクラが散ってしまいますと,ハナミズキが,まるでサクラの願いを引き継ぐかのように,咲き誇ります。日本の花言葉では,ハナミズキは「返礼」を意味します。ハナミズキは,日本がアメリカに贈ったサクラの返礼として日本にやって来たのです。アドレナリンの抽出で有名な化学者の高峰譲吉博士が,日本のサクラをワシントン D.C.に植えたいという運動が起きていることを,当時の東京市長の尾崎行雄に伝えました。これを聞いた尾崎市長が,1909 年,2千本のサクラの樹をアメリカに寄贈しました。残念なことに,そのサクラの樹は害虫にたかられたために,すべて処分せざるをえなくなりました。数年後,尾崎市長は慎重な管理の下,6,400 本のサクラをアメリカに贈ったのです。その半分はニューヨークに贈られ,残りの半分はワシントン D.C.のポトマック川の土手に植えられました。ポトマック河畔にならぶサクラは,それ以降,アメリカ人に愛されてきました。1947 年以来,サクラの満開の時季,ワシントン D.C.ではサクラ・マツリ(「全米桜祭り」)が開催されています。

Part 2 本文和訳

このサクラの樹の返礼に,アメリカは 1915 年にハナミズキを贈りました。アメリカ政府を代表して,米国農務省の W.T.スウィングル博士が 40 本のハナミズキの苗木を日本に持ってきてくれたのです。このハナミズキは日比谷公園をはじめとする東京のいくつかの公園や植物園に植えられました。しかしながら,第二次世界大戦の勃発のあと,ハナミズキは敵国の花と見なされ,じょじょに日本人から忘れ去られていきます。1990 年代に入って峰与志彦氏という研究家がハナミズキの歴史に興味を持ち,ハナミズキの原木の調査をおこなおうと決意しました。その結果,彼は,東京都立園芸高等学校に2本,小石川植物園に1本,静岡県にある農林水産省果樹試験場にもう1本のハナミズキを見つけたのです。それらの樹は,幹まわり1メートル以上,樹高は約 10 メートルの大きさに育っていました。およそ 100 年前に太平洋を渡ったハナミズキの苗木は,異国の地にしっかりと根付いたように思われます。日本じゅうの公園や庭園や街路で,ハナミズキは上品なその美しさでもって日本人の心を癒やしつづけているのです。

Part 3 本文和訳

歌手の一青窈は「ハナミズキ」という題の歌を書きました。インタビューに答えて彼女は,2001 年に起きた 9/11 アメリカ同時多発テロ事件の犠牲者を悼んでこの歌詞を書いたと言っています。およそ3千人の人の命が失われたこの非人間的な攻撃の報復として,ブッシュ政権はイラクとアフガニスタンから“テロリスト”を一掃することを目的として軍事行動を起こしました。この軍事行動によって多くの人命が失われ,子どもをふくむ罪のない市民も犠牲となりました。「ハナミズキ」の詩を書いたとき,一青窈はどうやったら憎しみと怒りの連鎖を止めることができるのだろうかと考えていました。また,こういう恐ろしい事件もやがては人々の記憶から薄れていってしまうことも心配していました。この歌は,戦争のない世界を願う祈りですと,彼女は語っています。2004 年の発売以来,「ハナミズキ」は日本の有名なポピュラーソングとなりました。しかし,面白いことに,歌詞に一青窈の平和のメッセージを読み取るリスナーはほとんどいなくて,単なるラブソングだと思っています。この歌の最初の下書きでは,「戦争」とか「破壊」などの,もっと直接的な言葉が使われていました。だけど一青窈はそういった言葉を消し,ハナミズキのイメージと歴史を使って人類への愛の願いを伝えようとしたのでした。

Part 4 本文和訳

「ハナミズキ」の中で一青窈は,「僕の我慢がいつか実を結び/果てない波がちゃんと/止まりますように」と,そしてまた,「…君のね/果てない夢がちゃんと/終わりますように/君と好きな人が/百年続きますように」と歌っています。この歌の歌詞はいろんな解釈が可能ですが,「ハナミズキ」が一青窈の平和の願いを込めた歌であることは間違いありません。すべての人が恐れや痛みなどと無縁で生きられるようにと,彼女は願っているのです。一青窈は,2011 年に東日本を襲った大地震と大津波の被害者を支援するために催されたコンサートで「ハナミズキ」を歌いました。この歌が歌われたのは,あの大災害の悲しみと痛みを経験した人々に関連した内容を歌ったものであると一青窈が信じていたからでしょう。2011 年の 7 月に開かれたコンサートでは,「ときに勇気がくじかれそうになることがあっても,わたしたちは歩き続けましょう。あなたと好きな人たちが,百年続きますよう
にと,わたしは祈っています」と一青窈は語っています。一青窈の「ハナミズキ」は,困難な時にあっても前に進んでいこうとする人たちにとっての応援歌となっていると思われます。ハナミズキの花とともに,歌もまた人を癒す効果があるでしょう。花咲くドッグウッド,ハナミズキは,人々のあいだに絆きずなを創り上げ,それを育てつづけた歴史ゆえに,これからも永遠に愛されることでしょう。