CROWN 2 Lesson 9 The Long Voyage Home

Lesson 9
The Long Voyage Home
帰還への長き旅

(pp.136-145)

 2003年、日本の科学者たちは、3億キロかなたの小惑星イトカワから土壌サンプルを持ち帰るという使命を与えて、「はやぶさ」を送り出した。これはほぼ不可能な任務であった。

Section 1  本文和訳

 「はやぶさ」プロジェクトはとても意欲的なものであった。JAXAはこの計画にとても困難な目標を設定した。それは、イオンエンジン開発、自律航行システムの開発、イトカワからの土壌サンプルの採取、サンプルの持ち帰りであった。イトカワのような小惑星の起源は、私たちの太陽系の始まりにさかのぼるので、そのようなサンプルは、太陽系の起源の謎を解き明かす一助になるだろう。これは、宇宙探査の歴史の中でも画期的なものになるであろう。

 宇宙探査用のイオンエンジンの開発は、最重要目標のひとつだった。ほとんどのロケットエンジンは気体と液体を使用する。イオンエンジンはを使う。力は非常に弱く、1円硬貨を持ち上げられる程度にすぎない。しかし宇宙では無重力、無空気抵抗なので、少量なエネルギーであっても十分な力になり得る。

Section 2  本文和訳

 自律航行システム開発はもうひとつの目標であった。電波が地球─イトカワ間の3億キロを伝わるのに16分かかる。非常事態のとき、「はやぶさ」は指令を待っていられない。自身で状況を判断し、なにをすべきかを決定しなければならなかった。

 残る2つの目標はさらに困難だった。イトカワは長さたった535メートル、ピーナッツ型の小さな小惑星だ。「はやぶさ」は秒速34キロで飛んでおり、宇宙の一片の「ちり」に命中しようとしているのだ。これは、ブラジルの1ミリの的を日本から射るようなものだ。科学者のひとりは語った。「もし、『はやぶさ』がこれらの目標を達成したら、ほかのどの宇宙探査機も成しえなかったことを成し遂げたことになるだろう」

 イトカワに到達することは困難だが、着陸と土壌サンプル採取はほぼ不可能に近かった。最初の着陸の試みで、「はやぶさ」は損傷した。1週間後、再び着陸を試みた。今回は、着陸しサンプル採取ができた。

 「はやぶさ」は帰路についたが、ほとんど間をおかず燃料が漏れ始め、バッテリーは弱り始めた。チームはなんとかこれらの問題を解決したが、数日後、事態ははるかに悪化した。「はやぶさ」とのすべての交信が途絶えたのである。

Section 3  本文和訳

 連日連夜、チームはメッセージを送った。「『はやぶさ』、交信を待っている。応答せよ」 しかし、そのような長期の交信途絶後、再交信に成功した宇宙探査機は、歴史上なかった。

 「はやぶさ」は43日間宇宙をさまよった。とうとう応答はあったが、大気圏再突入の機会はすでに過ぎていた。「はやぶさ」はさらに3年宇宙に残らねばならなかった。その後、新たな問題があった。4基のエンジンすべてが停止したのである。「はやぶさ」が地球に戻ってくることはほぼ不可能であった。しかし、チームはなんとかエンジンを修復し、「はやぶさ」を再び蘇らせることに成功した。

 2010年6月、「はやぶさ」はひどく傷ついてはいたが、とうとう地球に接近していた。「はやぶさ」はカプセルを分離することに成功し、間もなく流れ星のように燃え尽きることになっていた。摂氏約3,000度の大気圏突入の熱に耐えるようには作られていなかった。「はやぶさ」プロジェクトのマネージャー、川口淳一郎は最後にひとつの指令を送った。「地球の写真を撮影せよ」 プロジェクトのメンバーは全員、「はやぶさ」が燃え尽きる直前に、地球が「はやぶさ」の目にどのように映っているのかを確かめたかった。「はやぶさ」は何度か写真を撮影しようと試みたが、うまくいかなかった。とうとう、最後の最後になってこの写真を撮影した。「はやぶさ」の惜別のことばだ。

Section 4  本文和訳

 土壌サンプルを積んだカプセルは、2010年6月13日、オーストラリアの砂漠に無事着陸した。

 川口は述べている。「多くの人が、『はやぶさ』プロジェクトは野心的すぎるし、リスクが多すぎると言っていました。私は、それはその通りだとわかっていたし、プロジェクトの成功は多くの幸運の結果だと認めなければなりません。けれども、私たちは高い目標を設定しリスクを取る準備を常にしてきました。はるか遠くを見通したかったら、高い塔を建てねばなりません。

 「必要な援助が得られれば、私たちは、『はやぶさ』の20倍、30倍はるか遠くへ行く新型宇宙探査機の開発にほどなく取りかかるでしょう」

 15、16世紀、マゼランのような人たちが金と香辛料を求めて東方への航海に乗り出した。そして今、新しい知見と資源を求めて、私たちは宇宙への「大航海時代」にまさに入らんとしている、と川口は考えている。

 川口はこう結ぶ。「私たちはこの新しい時代の先陣でありたいのです。高い目標設定は、多大な困難に直面することを意味します。強くなければならないし、よいチームワークを築かねばなりません。トラブルや失敗にくじけてはならないのです。『はやぶさ』の撮った地球の写真を見ると、『はやぶさ』のこんな声が聞こえてくるような気がします。『あきらめるな。希望と自信を持って未来に前進せよ』と」